第26节(第4/6页)
ざという時に後戻りが出来ないよう、自らの退路を断っておいたのです。それが同時に、今回の驚くべきトリックでもありました」
湯川の話に、靖子は混乱し始めていた。何のことをいっているのか、まるで理解できなかったからだ。そのくせ、何かとてつもない衝撃の予感があった。
たしかにこの男のいうとおりだった。石神がどんな仕掛けを施したのか、靖子は全く知らなかった。同時に、なぜ自分に対する刑事たちの攻撃が思ったよりも激しくないのか、不思議だった。じつのところ彼女は、刑事たちの再三にわたる尋問を、的はずれとさえ感じていたのだ。
その秘密を湯川は知っている――。
彼は時計を見た。残り時間を気にしているのかもしれなかった。
「このことをあなたに教えるのは、じつに心苦しい」彼は実際、苦痛そうに顔を歪めていった。
「石神がそのことを、絶対に望んでいないからです。何があっても、あなたにだけは真実を知られたくないと思っているでしょう。それは彼のためじゃない。あなたのためです。もし真相を知ったら、あなたは今以上の苦しみを背負って生きていくことになる。それでも僕はあなたに打ち明けずにはいられない。彼がどれほどあなたを愛し、人生のすべてを賭けたのかを伝えなければ、あまりにも彼が報われないと思うからです。彼の本意ではないだろうけど、あなたが何も知らないままだというのは、僕には耐えられない」
靖子は激しい動揺を覚えていた。息苦しくなり、今にも気を失いそうだった。湯川が何をいいだすのか、見当もつかなかった。だが彼の口調からも、それが想像を絶するものであることは察せられた。
「どういうことなんですか。いいたいことがあるなら、早くおっしゃってください」言葉は強いが、その声は弱々しく震えていた。
「あの事件旧江戸川での殺人事件の真犯人は」
湯川は大きく深呼吸した。
「彼なんです。石神なんです。あなたでも、あなたのお嬢さんでもない。石神が殺したんです。彼は無実の罪で自首したわけではない。彼こそが真犯人だったんです」
その言葉の意味がわからず、呆然としている靖子に、ただし、と湯川は付け加えた。
「ただし、あの死体は富樫慎二ではない。あなたの元の旦那さんではないんです。そう見せかけた、全くの他人なんです」
靖子は眉をひそめた。まだ湯川のいっていることが理解できなかったからだ。だが眼鏡の向こうで悲しげにまばたきする彼の目を見つめた時、不意にすべてがわかった。彼女は大きく息を吸い込み、口元に手をやっていた。驚きのあまり、声をあげそうになった。全身の血が騒ぎ、次にはその血が一斉にひいた。
「僕のいっている意味が、ようやくわかったようですね」湯川はいった。「そうなんです。石神はあなたを守るため、もう一つ別の殺人を起こしたのです。それが三月十日のことだった。本物の富樫慎二が殺された翌日のことです」
靖子は眩暈めまいを起こしそう
(本章未完,请翻页)