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胜盲俊
「あの、ゴキブリが」彼女は思いついたことを口走っていた。
「ゴキブリ」
「ええ。ゴキブリが出たものですから、その娘と二人で退治しようとそれで大騒ぎしちゃったんです」
「殺したんですか」
「えっ」石神の問いに、靖子は顔を強張こわばらせた。
「ゴキブリは始末したんですか」
「あはい。それはもうちゃんと。もう大丈夫です。はい」靖子は何度も頷いた。
「そうですか。もし私で何かお役に立てることがあればいってください」
「ありがとうございます。うるさくして、本当に申し訳ありませんでした」靖子は頭を下げ、ドアを閉めた。鍵もかけた。石神が自分の部屋に戻り、ドアを閉める音を聞くと、ふうーっと大きく吐息をついた。思わずその場にしゃがみこんだ。
背後で襖の開く音がした。続いて、おかあさん、と美里が声をかけてきた。
靖子はのろのろと立ち上がった。炬燵の布団の膨らみを見て、改めて絶望を感じた。
「仕方ないね」彼女はようやくいった。
「どうする」美里が上目遣いで母親を見つめてくる。
「どうしようもないものね。警察に電話するよ」
「自首するの」
「だって、そうするしかないもの。死んじゃった者は、もう生き返らないし」
「自首したら、おかあさんはどうなる」
「さあねえ」靖子は髪をかきあげた。頭が乱れていたことに気づいた。隣の数学教師は変に思ったかもしれない。しかしもはやどうでもいいことだと思った。
「刑務所に人らなきゃいけないんじゃないの」娘がなおも訊いてくる。
「そりゃあ、たぶん、ね」靖子は唇を緩めていた。諦めの笑みだった。「何しろ、人を殺しちゃったんだもの」
美里は激しくかぶりを振った。「そんなのおかしいよ」
「どうして」
「だって、おかあさんは悪くないのに。全部、こいつが悪いんじゃない。もう今は関係ないはずなのに、いつまでもおかあさんやあたしを苦しめて。こんなやつのために、刑務所になんて入らなくていいよ」
「そんなこといったって、人殺しは人殺しだから」
不思議なことに、美里に説明しているうちに靖子の気持ちは落ち着いてきた。物事を冷静に考えられるようにもなってきた。すると、ますます自分にはほかに選ぶ道はないと思えてきた。美里を殺人犯の娘にはしたくない。しかしその事実から逃れられないのなら、せめていくらかでも世間から冷たく見られないで済む道を選ばねばならない。
靖子は部屋の隅に転がっているコードレスホンに目を向けた。それに手を伸ばした。
「だめだよっ」美里が素早く駆け寄ってきて、母親の手から電話機を奪おうとした。
「離しなさい」
「だめだって」美里は靖子の手首を掴んできた。バドミントンをしているせいか、力は強かった。
「お願いだから離して」
「いやだ、おかあさんにそんなことさせない。だったら、あ
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