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別れてからは知りませんけど」
「あったかもしれないわけですね」
「ええ」
仮に前科はなくても、交通違反で指紋を採られたことぐらいはあるだろう。警察の科学捜査が交通違反者の指紋照合にまで及ぶかどうか石神は知らなかったが、考慮しておくに越したことはない。
死体をどう処置したところで、身元が判明することは覚悟しなければならなかった。とはいえ時間稼ぎは必要だ。指紋と歯型は残せない。
靖子がため息をついた。それは官能的な響きとなって石神の心を揺さぶった。彼女を絶望させてはならないと決意を新たにした。
たしかに難問だった。死体の身元が判明すれば、警察は間違いなく靖子のところへやってくる。刑事たちの執拗な質問攻めに彼女たち母娘は耐えられるか。脆弱ぜいじゃくな言い逃れを用意しておくだけでは、矛盾点をつかれた途端に破綻が生じ、ついにはあっさりと真実を吐露してしまうだろう。
完璧な論理、完璧な防御を用意しておかねばならない。しかも今すぐにそれらを構築しなければならない。
焦るな、と彼は自分自身にいい聞かせた。焦ったところで問題解決には至らない。この方程式には必ず解はある――。
石神は瞼を閉じた。数学の難問に直面した時、彼がいつもすることだった。外界からの情報をシャットアウトすれば、頭の中で数式が様々に形を変え始めるのだ。しかし今彼の脳裏にあるのは数式ではない。
やがて彼は目を開いた。まず机の上の目覚まし時計を見る。八時三十分を回っていた。次にその目を靖子に向けた。彼女は息を呑む気配を見せ、後ろにたじろいだ。
「脱がすのを手伝ってください」
「えっ」
「この人の服を脱がせます。ジャンパーだけでなく、セーターもズボンも脱がせます。早くしないと死後硬直が始まってしまう」そういいながら石神は早くもジャンパーに手をかけていた。
「あ、はい」
増子も手伝い始めたが、死体に触れるのが嫌なのか、指先がふるえている。
「いいです。ここは私がやります。あなたはお嬢さんを手伝ってやりなさい」
「ごめんなさい」靖子は俯き、ゆっくりと立ち上がった。
「花岡さん」彼女の背中に石神は呼びかけた。振り向いた彼女にいった。「あなた方にはアリバイが必要です。それを考えていただきます」
「アリバイ、ですか。でも、そんなのはありませんけど」
「だから、これから作るんです」石神は死体から脱がせたジャンパーを羽織った。「私を信用してください。私の論理的思考に任せてください」
3
「君の論理的思考とはどういうものなのか、一度じっくり分析してみたいね」
退屈そうに頬杖をついてそういってから、湯川学はわざとらしい大欠伸あくびをした。小さめのメタルフレームの眼鏡は外して脇に置いてある。いかにも、もう必要ないといわんばかりだ。
しかし事実そうなのかもしれない。草薙くさなぎは先程から目の前
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