第7节(第3/6页)
レットからねえ。まあ、不自然な話ではないな」湯川は腕組みした。
「半券の日付は事件当日のものだったんだな」
「もちろんそうだ。でも、だからといって映画を見たとはかぎらない。ゴミ箱か何かから半券を拾ったのかもしれないし、チケットは買ったが、映画館には入らなかったということも考えられる」
「しかしいずれにしてもその容疑者は、映画館もしくはその近くに行ったわけだ」
「そう思ったから、俺たちも今朝から聞き込みに回っている。目撃情報を探すためにさ。ところがその日チケットのモギリをしていたバイトの女の子が今日は休みでね、わざわざ自宅まで行ってきた。で、その帰りにこちらに寄らせてもらったというわけさ」
「そのモギリ嬢から有益な情報を得られた、という表情ではないな」湯川は口元を曲げるように笑った。
「何日も前だし、客の顔なんかいちいち覚えてるわけないよな。まあ、最初から当てにしてなかったから、別にがっかりもしてない。さあ、助教授の邪魔らしいから、そろそろ行くぞ」草薙は、まだインスタントコーヒーを飲んでいる岸谷の背中を叩いた。
「しっかりな、刑事さん。その容疑者が真犯人なら、ちょっと苦労するかもしれんが」
湯川の言葉に、草薙は振り向いた。「どういう意味だ」
「今もいっただろ。ふつうの人間なら、アリバイ工作に用意した半券の保管場所にまで気を配らない。刑事が来た時のことを考えてパンフレットに挟んでおいたのだとしたら、相当な強敵だぞ」そういった湯川の目からは笑いは消えていた。
友人の言葉を反窃してから草薙は頷いた。「心に留めておくよ」
じゃあまた、といって彼は部屋を出ようとした。だがドアを開ける前に思い出したことがあって、再び振り返った。
「容疑者の隣におまえの先輩が住んでるぞ」
「先輩」湯川は怪訝そうに首を傾げた。
「高校の数学教師で、石神とかいった。帝都大の出身だといってたから、たぶん理学部だと思うんだけどな」
「イシガミ」呟くように繰り返した後、レンズの奥の目が大きくなった。「ダルマの石神か」
「ダルマ」
少し待っててくれといって湯川は隣の部屋に消えた。草薙は岸谷と顔を見合わせた。
すぐに湯川が戻ってきた。手に黒い表紙のファイルを持っていた。彼は草薙の前でそれを開いた。
「この男じゃなかったか」
その頁には何人かの顔写真が並んでいた。学生らしき若者たちだ。頁の上には、第三十八期修士課程修了生と印刷されている。
湯川が指差したのは、丸い顔をした大学院生の写真だった。表情がなく、糸のように細い目を正面に向けている。名前は石神哲哉となっていた。
「あっ、この人ですよ」岸谷がいった。「ずいぶん若いけど、間違いないです」
草薙は写真の顔の額から上を指で隠し、頷いた。
「そうだな。今はこの頃よりもっと髪が薄いから、すぐにはわからなかったけど、た
(本章未完,请翻页)