第7节(第6/6页)
歩くと、早速受話器を上げ、テレホンカードを差し込んだ。三十メートルほど離れたところに雑貨屋があり、そこの主人と思われる男が店じまいをしている。それ以外には、周りに人気はない。
「はい、あたしです」すぐに靖子の声が返ってきた。石神からの電話だとわかっている口調だった。そのことが彼は何となく嬉しかった。
「石神です。何か変わったことはありませんでしたか」
「あ、あの、刑事が来ました。お店に」
「べんてん亭に、ですか」
「はい。いつもと同じ刑事です」
「今度はどんなことを訊いてきましたか」
「それが、富樫がべんてん亭に来なかったかって」
「何と答えましたか」
「もちろん、来てませんと答えました。すると刑事は、あたしがいない時に来たのかもしれませんねとかいって、店の奥に入っていったんです。後で店長たちから聞いたら、富樫の写真を見せられたそうです。こういう人物が来なかったかって。あの刑事は、あたしを疑っています」
「あなたが疑われることは予定通りです。何もこわがることはない。刑事が訊いていったのはそのことだけですか」
「あと、以前働いていた店のことを訊かれました。錦糸町の飲み屋ですけど、今でもその店に行くことはあるかとか、店の者と連絡を取り合うことはあるかとか。石神さんから言われたとおり、そういうことはありませんと答えておきました。それで、あたしのほうから質問してみたんです。どうして前にいた店のことなんかを訊くんですかって。そうしたら、富樫が最近その店に来たんだっていわれました」
「ははあ、なるほど」石神は受話器を耳に当てたまま頷いた。「富樫はその店で、あなたのことをいろいろと嗅ぎ回っていたわけだ」
「そうらしいんです。べんてん亭のこともその店で知ったみたいです。刑事は、富樫はあたしを探していたようだから、べんてん亭に来ないはずがないんだけどなあなんて、いうんです。あたしは、そんなこといわれても来なかったんだから仕方がないでしょうと答えておきましたけど」
草薙という刑事のことを石神は思い出していた。どちらかといえば人当たりの良い雰囲気を持った男だった。話し方も