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第12节(第5/6页)

    僕も遠慮しておく。デザートを楽しむことにするよ」彼は目を細め、ナプキンで口元をぬぐった。

    ホステスをしていた頃、靖子は工藤と何度か食事をした。フレンチでもイタリアンでも、彼が一本のワインだけで終わることなどなかった。

    「お酒、あまり飲まなくなったの」

    彼女の問いに、工藤は何か考える表情をしてから頷いた。

    「そうだな、以前よりは少なくなったね。歳のせいかな」

    「そのほうがいいかもね。身体は大事にしなきゃ」

    「ありがとう」工藤は笑った。

    今夜の食事は、昼間に誘われた。靖子の携帯電話に工藤がかけてきたのだ。迷いながらも、彼女は承諾した。迷ったのは、無論、事件のことが気にかかっているからだ。こんな大事な時に、浮かれて食事になど行っている場合ではない、という自制心が働いた。警察の捜査に、靖子以上に怯えているに違いない娘に対し、申し訳ないという気持ちもあった。さらには、事件隠蔽に無条件で協力してくれている石神のことも気になった。

    だが、こんな時だからこそ、ふつうに振る舞うことが大切ではないか、と靖子は思った。ホステス時代に世話になった男性から食事を誘われれば、何か特別な理由がないかぎりは、断らないのが「ふつう」ではないかと考えた。もし断ったりしたら、そちらのほうが不自然で、そのことが小代子たちの耳に入れば、かえって怪しまれることになる。

    しかしそんな理屈も、じつは無理やりにこじつけたものにすぎないことに、彼女自身が気づいていた。食事の誘いに乗った最大にして唯一の理由は、工藤と会いたかった、ただそれだけだ。

    といっても工藤に対して恋愛感情を持っているかどうか、自分でもよくわからなかった。先日再会するまで、殆ど思い出すこともなかったのだ。好意は持っているが、まだその段階にすぎない、というのがおそらく本当のところだろう。

    だが食事の誘いを受けた直後から、華やいだ気分になったのは紛れもない事実だった。あの浮き浮きとした気分は、恋人とデートの約束をした時のものに限りなく近かった。体温がほんの少し上昇したような気さえした。浮き立った勢いで、小代子に頼んで仕事を抜けさせてもらい、家へ着替えに帰ったくらいだった。

    もしかしたらそれは、現在自分が置かれている息の詰まるような状態から、たとえ一時でも抜け出し、辛いことを忘れたいという欲求があったせいかもしれない。あるいは、長い間封印してきた、女性として扱われたいという本能が目を覚ましたからかもしれない。

    いずれにせよ靖子は、食事に来たことを後悔していなかった。短い時間だったし、後ろめたさは常に頭の隅にこびりついていたが、久しぶりに楽しい気分を味わえた。

    「今夜、お嬢さんの食事はどうしたの」コーヒーカップを手に、工藤が訊いてきた。

    「店屋物をとってちょうだいって留守電に入れておいたの。たぶんピザにすると思う。あの子、ピザが好きだから」

    「ふうん。
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