第25节(第3/6页)
出て左に曲がるのを見届けてから、草薙は車を発進させた。ゆっくりと門から出ると、湯川はタクシーを捕まえているところだった。そのタクシーが走りだすのと同時に、草薙も道路に出た。
独身の湯川は、一日の大半を大学で過ごしている。自宅に帰ってもやることがないし、読書もスポーツも大学にいたほうがやりやすい、というのが彼の言い分だった。食事をとるのも楽だ、といっていたこともある。
時計を見ると、まだ五時前だ。彼がこんなに早い時間帯に帰宅するとは思えなかった。
尾行しながら草薙は、タクシーの会社と車番号を記憶した。万一途中で見失った場合でも、湯川をどこで降ろしたか、後で調べられるからだ。
タクシーは東に向かっていた。道は少し混んでいる。草薙の車との間に、何台かの車が出たり入ったりしたが、幸い信号などで引き離されることはなかった。
やがてタクシーは日本橋を通過した。間もなく隅田川を渡るというところで止まった。新大橋の手前だ。その先には石神たちのアパートがある。
草薙は車を路肩に寄せ、様子を窺った。湯川は新大橋の脇にある階段を下りていく。アパートに行くのではなさそうだ。
草薙は素早くあたりを見回し、車を止められそうな場所を探した。幸い、パーキングメーターの前が空いていた。そこに駐車すると、急いで湯川の後を追った。
湯川は隅田川の下流に向かってゆっくりと歩いていた。何か用があるようには見えず、散歩しているような歩調だった。彼は時折、ホームレスたちのほうに目を向けた。しかし立ち止まることはない。
足を止めたのは、ホームレスたちの住居が途切れたあたりでのことだ。彼は川縁に作られた柵に肘をついた。それから不意に草薙のほうに顔を巡らせた。
草薙は少したじろいだ。しかし湯川には驚いている気配はない。薄く笑っているほどだった。
どうやらずいぶん前から尾行に気づいていたようだ。
草薙は大股で彼に近づいた。「わかってたのか」
「君の車は目立つからな」湯川はいった。「あんなに古いスカイライン、今はめったに見かけない」
「つけられてるとわかったから、こんなところで降りたのか。それとも、最初からここが目的地だったのか」
「それはどちらも当てはまるし、少し違うともいえる。当初の目的地はこの先だった。でも君の車に気づいて、少しだけ降りる場所を変更した。君をここに連れてきたかったからな」
「俺をこんなところに連れてきて、どうしようっていうんだ」草薙はさっと周りを見回した。
「僕が最後に石神と言葉を交わしたのが、この場所だったんだ。その時僕は彼にこういった。この世に無駄な歯車なんかないし、その使い道を決められるのは歯車自身だけだ、とね」
「歯車」
「その後、事件に関する僕の疑問をいくつか彼にぶつけてみた。彼の態度はノーコメントというものだったが、僕と別れた後、彼は答えを出した。それが出頭だった」
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