第25节(第4/6页)
「おまえの話を聞いて、観念して出頭したというのか」
「観念か。まあ、ある意味観念なのかもしれないが、彼としては最後の切り札を出したというところじゃないのかな。その切り札を、じつに入念に用意していたようだから」
「石神にはどういう話をしたんだ」
「だからいってるじゃないか。歯車の話だ」
「その後に、いろいろと疑問をぶつけたんだろ それを訊いてるんだ」
すると湯川はどこか寂しげな笑みを浮かべ、ゆらゆらと頭を振った。
「そんなものはどうでもいい」
「どうでもいい」
「重要なのは歯車の話だ。彼はそれを聞いて出頭する決心をしたんだ」
草薙は大きくため息をついた。
「大学の図書館で新聞を調べただろ。目的はなんだ」
「常磐君から聞いたのか。僕の行動まで探り始めたらしいな」
「俺だってこんなことはしたくなかった。おまえが何も話してくれないからだ」
「別に気を悪くしているわけじゃない。それが君の仕事なんだから、僕のことでも何でも調べてくれて結構だ」
草薙は湯川の顔を見つめてから頭を下げた。「頼む、湯川。もうそんな思わせぶりなことはやめてくれ。おまえは何か知っているんだろう それを教えてくれ。石神は真犯人じゃないんだろ。だったら、奴が罪をかぶることは理不尽だと思わないのか。昔の友人を殺人犯にしたいわけじゃないだろ」
「顔を上げてくれ」
湯川にいわれ、草薙は彼を見た。はっとした。辛そうに歪められた物理学者の顔があった。彼は額に手をやり、じっと目を閉じた。
「もちろん僕だって彼を殺人犯なんかにしたくない。だけど、もうどうしようもないんだ一体、どうしてこんなことに」
「おまえ、何をそんなに苦しんでるんだ。なんで俺に打ち明けてくれないんだ。友達だろうが」
すると湯川は目を開け、厳しい顔のままいった。「友達であると同時に刑事だ」
草薙は言葉を失った。この長年の友人との間に、初めて壁の存在を感じた。刑事であるがゆえに、これまで苦悩の表情など見せたことのない友人から、その理由を聞き出すことさえできないのだ。
「これから花岡靖子のところへ行く」湯川がいった。「一緒に来るかい」
「行ってもいいのか」
「構わない。ただし、口は挟まないでくれるか」
「わかった」
くるりと踵を返し、湯川は歩き始めた。その後を草薙はついていく。湯川の当初の目的地は弁当屋のべんてん亭だったらしい。花岡靖子と会って何を話すつもりなのか、今すぐに問い質したい気持ちだったが、草薙は黙って歩いた。
清洲橋の手前で湯川は階段を上がっていく。草薙がついていくと、階段の上で湯川が待っていた。
「そこにオフィスビルがあるだろ」湯川はそばの建物を指差した。「入り口にガラスドアがある。見えるかい」
草薙はそちらに目を向けた。ガラスドアに二人の姿が映っていた。
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