第28节(第2/6页)
では、この文書に込められた石神の思いが、一層強く胸に突き刺さってくる。
警察にいって、すべてを話してしまおうかと思う。だがそれをしたところで石神は救われない。彼もまた殺人を犯しているのだ。
工藤からもらった指輪のケースが目に留まった。蓋を開け、指輪の輝きを見つめた。
こうなってしまった以上は、せめて石神の希望通りに、自分たちが幸せを掴むことを考えるべきなのかもしれなかった。彼が書いているように、ここでくじければ、彼の苦労は無駄になってしまうのだ。
真実を隠しているのは辛い。隠したまま幸せを掴んだところで、本当の幸福感は得られないだろう。一生自責の念を抱えて過ごさねばならず、気持ちが安らぐこともないに違いない。しかしそれに耐えることが、せめてもの償いなのかもしれないと靖子は思った。
指輪を薬指に通してみた。ダイヤは美しかった。心に曇りを持たぬまま工藤のもとへ飛び込んでいけたらどんなに幸せだろうと思った。だがそれは叶わぬ夢だ。自分の心が晴れることはない。むしろ、心に一点の曇りも持っていないのは石神だった。
指輪をケースに戻した時、靖子の携帯電話が鳴った。彼女は液晶画面を見た。知らない番号が表示されていた。
はい、と彼女は答えてみた。
「もしもし、花岡美里さんのおかあさんですか」男の声だった。聞き覚えはない。
「はい、そうですけど」不吉な予感がした。
「私、森下南中学校のサカノといいます。突然お電話して申し訳ありません」
美里の通っている中学だ。
「あの、美里に何か」
「じっは先程、体育館の裏で、美里さんが倒れているのが見つかったんです。それが、あの、どうやら、手首を刃物か何かで切ったようで」
「えっ」心臓が大きく跳ね、息が詰まった。
「出血がひどいので、すぐに病院に運びました。でも命に別状はありませんから御安心ください。ただ、あの、自殺未遂の可能性がありますので、そのことは御承知おき願いたいと」
相手の話の後半は、殆ど靖子の耳には届いていなかった。
目の前の壁には無数の染みがついていた。中から適当な何点かを選び、頭の中でそれらの点をすべて直線で結んだ。出来上がった図形は、三角形と四角形と六角形を組み合わせたものになった。次にそれを四つの色で塗り分けていく。隣同士が同じ色になってはいけない。もちろんすべて頭の中での作業だ。
その課題を石神は一分以内でこなした。一旦頭の中の図形をクリアし、別の点を選んで同様のことを行う。単純なことだが、いくら繰り返しても飽きることはなかった。この四色問題に疲れたら、次は壁の点を使って、解析の問題を作ればいい。壁にある染みのすべての座標を計算するだけでも、かなりの時間を使いそうだった。
身体を拘束されることは何でもない、と彼は思った。紙とペンがあれば、数学の問題に取り組める。もし手足を縛られても、頭の中で同じことをすれば
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