第29节
神が外に出て、湯川がそれに続いた。
湯川を残し、石神だけを留置場に連れていこうとした時だった。通路の角から岸谷が現れた。さらに彼の後から一人の女がついてきた。
花岡靖子だった。
「どうしたんだ」草薙は岸谷に訊いた。
「それがこの人から連絡があって、話したいことがあるということなので、それで、たった今、あの、すごい話を」
「一人で聞いたのか」
「いえ、班長も一緒でした」
草薙は石神を見た。彼の顔は灰色になっていた。その目は靖子を見つめ、血走っていた。
「どうして、こんなところに‥‥‥」呟いた。
凍り付いたように動かなかった靖子の顔が、みるみる崩れていった。その両目から涙が溢れていた。彼女は石神の前に歩み出ると、突然ひれ伏した。
「ごめんなさい。申し訳ございませんでした。あたしたちのためにあたしなんかのために」背中が激しく揺れていた。
「何いってるんだ。あんた、何をおかしなことをおかしなことを」石神の口から呪文のように声が漏れた。
「あたしたちだけが幸せになるなんてそんなの無理です。あたしも償います。罰を受けます。石神さんと一緒に罰を受けます。あたしに出来ることはそれだけです。あなたのために出来ることはそれだけです。ごめんなさい。ごめんなさい」靖子は両手をつき、頭を床にこすりつけた。
石神は首を振りながら後ろに下がった。その顔は苦痛に歪んでいた。
くるりと身体の向きを変えると、彼は両手で頭を抱えた。
うおううおううおう――獣の咆哮ほうこうのような叫び声を彼はあげた。絶望と混乱の入り交じった悲鳴でもあった。聞く者すべての心を揺さぶる響きがあった。
警官が駆けつけてきて、彼を取り押さえようとした。
「彼に触るなっ」湯川が彼等の前に立ちはだかった。「せめて、泣かせてやれ」
湯川は石神の後ろから、彼の両肩に手を載せた。
石神の叫びは続いた。魂を吐き出しているように草薙には見えた。
:冷泉泓薇整理
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