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いか」タクシーが走りだして間もなく、工藤がいった。「何ならお嬢さんが一緒でもかまわない」
「あの子のことは気にしなくていいけど、工藤さんは大丈夫なの」
「僕はいつだって大丈夫だよ。今はそんなに忙しくないんだ」
「そう」
靖子は彼の妻のことをいったのだが、問い直すのはやめておいた。彼もそれをわかっていて、勘違いしたふりを装っていると感じたからだ。
携帯電話の番号を訊かれたので、靖子は教えた。拒否する理由がなかった。
工藤はタクシーをアパートのすぐそばまで寄せてくれた。靖子のほうが奥に乗っていたので、彼も一旦車を降りた。
「濡れるから、早く乗って」外に出ると、彼女はいった。
「じゃ、また今度」
「うん」靖子は小さく頷いた。
タクシーに乗り込んだ工藤の目が、彼女の背後に向けられた。それにつられて振り向くと、隅段の下で一人の男が傘をさして立っていた。暗くて顔がよくわからないが、その体型から石神だと彼女は察した。
石神はゆっくりと歩いていく。工藤が目を向けたのは、石神がじっと二人のことを見ていたからではないかと靖子は想像した。
「電話するよ」そういい残し、工藤はタクシーを出した。
遠ざかるテールランプを靖子は見送った。久しぶりに気持ちが高ぶっているのを彼女は自覚した。男性と一緒にいて心が浮き立ったことなど何年ぶりだろうと思った。
タクシーが石神を追い越していくのが見えた。
部屋に帰ると美里がテレビを見ていた。
「今日、何かあった」靖子は尋ねた。
学校のことなどでは無論ない。それは美里もわかっているはずだった。
「何もなかった。ミカも何もいってなかったから、まだ刑事が来てないんだと思う」
「そう」
間もなく彼女の携帯電話が鳴りだした。公衆電話からのものであることを液晶画面が示していた。
「はい、あたしです」
「石神です」予想通りの低い声が聞こえてきた。「今日は何かありましたか」
「特に何もありませんでした。美里のほうも、何もなかったといっています」
「そうですか。でも油断しないでください。警察があなたに対する疑念を捨てたはずはないのです。おそらく今は、徹底的に周辺を調べているところだと思います」
「わかりました」
「そのほかに変わったことは」
「えっ」靖子は戸惑った。「だから、変わったことは特に何もなかったんですけど」
「あそうでしたね。どうもすみません。では、また明日」石神は電話を切った。
靖子は怪訝に感じながら携帯電話を置いた。石神が珍しく狼狽を示したように思えたからだった。
工藤を見たからではないか、と靖子は思った。親しげに彼女と話していた彼を、石神は一体何者なのかと訝ったのではないか。彼のことを知りたいという思いが、最後の奇妙な質問になったのではないか。
靖子は、石神がなぜ彼女
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