第12节(第1/6页)
にある横断歩道の脇に、黒いコートを羽織った湯川の姿があった。石神を見て、にこやかに手を振ってきた。
「わざわざ済まなかったな」湯川が笑顔で声をかけてきた。
「何なんだ、突然こんなところまでやってきたりして」石神も表情を和ませて訊いた。
「まあ、歩きながら話そう」
湯川が清洲橋通り沿いに歩きだした。
「いや、こっちだ」石神は脇道を指した。「この道を真っ直ぐ行ったほうが、俺のアパートには近い」
「あそこに行きたいんだよ。例の弁当屋に」湯川はさらりといった。
「弁当屋どうして」石神は顔が強張るのを感じた。
「どうしてって、そりゃあ弁当を買うためだよ。決まってるじゃないか。今日、ほかにも寄るところがあって、ゆっくり食事をしている暇はなさそうだから、今のうちに晩飯を確保しておこうと思ってね。おいしいんだろ、そこの弁当は。何しろ、君が毎朝買ってるぐらいなんだから」
「ああそうか。わかった、じゃあ、行こう」石神もそちらに足を向けた。
清洲橋に向かって、二人並んで歩きだした。脇を大きなトラックが走り抜けていく。
「先日、草薙に会ってね。ほら、前も話した、君のところに行ったという刑事だよ」
湯川の言葉に石神は緊張した。嫌な予感が一層大きくなった。
「彼が何か」
「まあ大したことじゃないんだ。彼は仕事に行き詰まると、すぐに僕のところに愚痴をこぼしに来る。しかも、いつも厄介な問題を抱えてるから始末が悪い。以前なんか、ポルターガイストの謎を解いてくれなんていいだしてね、大いに迷惑したものだ」
湯川はそのポルターガイスト談を話し始めた。たしかに興味深い事件ではあった。しかしそんなものを聞かせたくて、わざわざ石神に会いに来たわけではないはずだった。
石神が、彼の本来の目的を訊こうと思っているうちに、べんてん亭の看板が見えてきた。
湯川と二人で店に入っていくことに、石神は不安を覚えた。自分たちを見て、靖子がどんな反応を示すか予想できなかったからだ。こんな時間に石神が現れること自体、異例のことなのに、連れがいるとなれば、何か余計なことを深読みするかもしれない。彼女が不自然な態度をとらねばいいが、と願った。
彼のそんな思いなどお構いなしに、湯川はべんてん亭のガラス戸を開け、中に入っていった。仕方なく、石神も後に続いた。靖子は他の客の相手をしているところだった。
「いらっしゃいませ」靖子は湯川に向かって愛想笑いをし、次に石神のほうを見た。その途端、驚きと戸惑いの色が彼女の顔に浮かんだ。笑みが中途半端な形で固まった。
「彼が何か」彼女の様子に気づいたらしく、湯川が訊いた。
「あ、いえ」靖子はぎこちない笑みのまま、かぶりを振った。「お隣さんなんです。いつも買いに来てくださって」
「そうらしいですね。彼からこの店のことを聞いて、それで一度食べてみようと思ったんです
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