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線を落とした後、頷きかけてきた。
「それならそれで仕方がないな。今回は別行動ということにしよう」そういって歩き始めた。その背中には強い意思が示されていた。草薙はもう声をかけなかった。
煙草を一本吸ってから草薙は駅に向かった。時間を潰したのは、湯川と同じ電車に乗らないほうがいいだろうと判断したからだ。理由はわからないが、今回の事件には湯川の個人的な問題が関わっており、彼はそれを一人で解決しようとしている。その思考の邪魔をしたくなかったのだ。
地下鉄に揺られながら草薙は考えた。湯川は何を悩んでいるのか。
やはりあの数学教師のことだろう。名前は石神といったはずだ。だが草薙たちのこれまでの捜査では、石神のことなどどこにも浮かび上がってきていない。ただ花岡靖子の隣人というだけのことだ。それなのになぜ湯川が彼を気にするのか。
草薙の脳裏に、弁当屋で見た光景が蘇った。夕方、湯川は石神と現れた。石神によれば、湯川がべんてん亭に行きたいといいだしたそうだ。
湯川は無意味なことをわざわざする人間ではない。石神と共にあの店に行ったのは、何らかの狙いがあったからなのだ。それは一体何か。
そういえば、あの直後に工藤が現れたのだった。しかし湯川がそのことを予期していたとは思えない。
草薙は何となく、工藤から聞いた様々な話を思い出していた。彼の話の中にも石神のことなど出てこなかった。というより、誰の名前も出さなかった。工藤は、はっきりとこういったのだ、自分は告げ口をしない主義だ、と。
その瞬間、何かが草薙の頭に引っかかった。告げ口をしない主義――その台詞が出たのは、どういう話をしていた時だろう。
「彼女に会いたくて弁当を買いに来る客だっているそうですよ」苛立ちを抑えながらそういっていた工藤の顔を思い出した。
草薙は大きく息を吸い込み、背中をぴんと伸ばした。向かいに座っていた若い女性が、気味悪そうに彼を見た。
草薙は地下鉄路線図を見上げた。浜町で降りよう、と思った。
ハンドルを握るのは久しぶりだが、走り始めて三十分もすると、運転自体には慣れてきた。ただし、目的の場所で路上駐車するのには少し手間取った。どこに停めても他の車の迷惑になるような気がするからだった。幸い、どこかの軽トラックが無造作に駐車したので、そのすぐ後ろに停める決心がついた。
レンタカーを借りたのは二度日だった。大学で助手をしていた頃、学生たちを連れて発電所の見学に行った際、現地を移動するのにどうしても必要で、やむなく借りたのだ。あの時には七人乗りのワゴン車だったが、今日は国産の小さな大衆車だ。だから運転はずいぶんと楽だ。
石神は斜め右側の小さなビルに目を向けた。有限会社ヒカリグラフィックの看板が出ている。工藤邦明の会社だ。
この会社を探り当てるのは、さほど難しいことではなかった。刑事の草薙から、工藤という名字と、印刷会社を経営し
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