第16节(第1/6页)
湯川は草薙を見つめてきた。
「その自転車が盗まれた場所というのを君は知っているのか」
「そりゃ、知ってるよ。何しろ、俺が持ち主から事情聴取したんだからな」
「じゃあ、お手数だけど案内してもらえないか。このあたりなんだろ」
草薙は湯川の顔を見返した。何のためにそこまで、と訊きたかった。しかし彼はそれを我慢した。湯川の目が、推理を研ぎすます時に見せる鋭い光を放っていた。
こっちだ、といって草薙は歩きだした。
その場所は彼等が缶コーヒーを飲んだところから五十メートルと離れていなかった。自転車がずらりと並んでいる前に草薙は立った。
「ここの歩道の手すりにチェーンで繋いであったそうだ」
「犯人はチェーンを切ったのかな」
「おそらくそうだろう」
「チェーンカッターを用意していたということか」そういって湯川は並んでいる自転車を眺めた。
「チェーンなんか、つけてない自転車のほうが多いじゃないか。それなのに、どうしてわざわざそんな面倒なことをしたんだろう」
「そんなこと知らないよ。気に入った自転車に、たまたまチェーンが付いていた、というだけのことじゃないのか」
「気に入ったか」湯川は独り言のように呟いた。「一体、何が気に入ったのかな」
「おまえ、何がいいたいんだ」草薙は少し苛立ってきた。
すると湯川は草薙のほうに向き直った。
「君も知ってのとおり、僕は昨日もここへ来た。で、今日と同じようにこの周辺を観察した。一日中、自転車は置かれている。しかもかなりの数だ。きちんと鍵をかけてあるものもあれば、盗まれるのも覚悟といった感じの自転車もある。そんな中から、なぜ犯人は、その自転車を選んだのか」
「犯人が盗んだと決まったわけじゃない」
「いいだろう。被害者自身が盗んだと考えてもいい。どちらにせよ、なぜその自転車だったのか」
草薙は頭を振った。
「おまえのいいたいことがよくわからん。盗まれたのは、何の変哲もないふつうの自転車だ。適当に選んだのが、それだったというだけのことだろ」
「いや、違うな」湯川は人差し指を立て、それを横に振った。「僕の推理をいおう。その自転車は新品もしくは新品同様の品だった。どうだい、違うかい」
草薙は虚を突かれた思いだった。自転車の持ち主である主婦とのやりとりを回想した。
「そうだった」彼は答えた。「そういえば、先月買ったばかりだとかいってた」
湯川はそれが当然だという顔で頷いた。
「だろうな。だからこそ、きちんとチェーンをかけていたし、盗まれたとなれば、早々に警察に届けたんだろう。逆にいうと、犯人はそういう自転車を盗むつもりだった。そのために、チェーンをかけてない自転車なんかいくらでもあるとわかっていながら、わざわざチェーンカッターを用意してきたんだ」
「わざと新品を狙ったというのか」
「そういう
(本章未完,请翻页)