第25节(第5/6页)
「見えるけど、それがどうかしたのか」
「事件直後に石神と会った時も、こうして二人でガラスに映った姿を眺めた。といっても、僕は気づかなかった。石神にいわれて、見たんだ。あの直前までは、彼が事件に関与している可能性など、全く考えなかった。僕は久しぶりに好敵手と再会できたことで、ちょっと有頂天にさえなっていた」
「ガラスに映った姿を見て、奴への疑いが生じたとでもいうのか」
「彼はこんなことをいったんだ。君はいつまでも若々しい、自分なんかとは大違いだ、髪もどっさりある――そういって自分の頭髪を少し気にする素振りを見せた。そのことは僕を驚かせた。なぜならあの石神という人物は、容姿など絶対に気にする男ではなかったからだ。人間の価値はそんなものでは計れず、それを必要とするような人生など選ばない、というのが昔からの主義だった。そんな彼が外見を気にしている。彼は確かに髪が薄いが、そんな今さらどうしようもないことを嘆いている。それで僕は気づいたんだ。彼は外見や容姿を気にせざるをえない状況にいる、つまり恋をしているのだとね。それにしても、なぜこんな場所で、唐突にそんなことをいいだしたのか。急に外見を気にしたのか」
湯川のいわんとすることに草薙は気づいた。彼はいった。
「間もなくその惚れている女に会うから、か」
湯川は頷いた。
「僕もそう考えた。弁当屋で働いている女性、アパートの隣人で、元夫が殺された女性こそ、彼の意中の相手ではないかと考えた。しかしそうなると大きな疑問がわく。彼の事件に対するスタンスだ。当然、気になって仕方がないはずなのに、傍観者を決め込んでいる。やはり彼が恋をしているというのは思い過ごしなのか。そこで改めて石神に会い、彼と一緒に弁当屋に行ってみた。彼の態度から何かわかると思ったからだ。するとそこに思いがけない人物が現れた。花岡靖子の知り合いの男性だ」
「工藤だ」草薙はいった。「現在、靖子と付き合っている」
「そうらしいね。その工藤なる人物と彼女が話しているのを見ている時の石神の顔――」湯川は眉間に皺を寄せ、首を振った。「あれで確信した。石神の恋の相手は彼女だとね。彼の顔には嫉妬の色が浮かんでいた」
「しかしそうなると、一方の疑問がまた出てくる」
「そう。その矛盾を解決する説明は一つしかなかった」
「石神が事件に絡んでいる――おまえが奴を疑い始めたのは、そういう流れからだったのか」草薙は改めてビルのガラスドアを見た。「恐ろしい男だよ、おまえは。石神としては、一筋の傷が命取りになったわけか」
「彼の強烈な個性は何年経っても僕の記憶に焼き付いていた。そうでなかったら、僕でも気づかなかった」
「どっちにしても、奴にツキがなかったということだな」そういって草薙は通りに向かって歩き始めた。だが湯川がついてこないことに気づくと、立ち止まった。「べんてん亭に行くんじゃないのか」
湯川は俯
(本章未完,请翻页)